本計画の敷地は世田谷区の中でも特に良好な環境に恵まれた場所にあります。敷地南側には緑豊かな羽根木公園、北側、西側には養護学校と中学校が隣接しています。それらとの調和を図るために次の点を留意して計画しました。
・公園や学校、低層住宅街に馴染むように、9000m2を超える大きな建築規模を地下を利用するなどして中層建築のボリュームに押さえ、しかも5、6階は平面規模を押さえ、周辺環境に違和感を与えない近隣住民に親しまれる警察署を目指しました。このことは周辺に対しての日照確保や電波障害の防止にも寄与しています。
・敷地周囲がすべて道路で囲まれている特長を活かし、周囲には柵を巡らせずに緑地帯と建物壁面で管理ができる威圧感のない警察署としました。そのため、既存敷地にあった樹木は出来る限り移植し、保護しました。また、建物の屋根部分を屋上緑化し、駐車スペースには芝ブロック舗装を用い周辺の緑と途切れない緑化に心がけました。
・外観は従来の庁舎にありがちな無彩色ではなく、羽根木公園の梅にちなんだ淡い梅色のタイルを使用し温かみが感じられるものとしました。
新しい警察署のあり方としてより市民と密着した安全な町を作る拠点としての施設を目指すために、市民が親しみやすく、便利で安全な開かれた庁舎とすることを心がけました。
・機能によってオープンな部分とクローズな部分を明確にゾーン分けをして、動線の交錯をなくし、それぞれの独立性を高めました。このことにより、日常の窓口サービス部分は施設利用者にとっても執務者にとってもより便利で使いやすく、多目的に市民にも利用できる講堂や道場なども他の機能に邪魔されることなく市民に開放しやすくしました。
・災害時の防災拠点として、また避難拠点として、近くの公園や学校と連携してその機能が発揮できるように、外部から直接使用できる防災用トイレや防災用井戸を設置しました。また、講堂や道場などの大きなスペースが、その折の対策本部や救助拠点として機能するような設備を設置しました。道場の床は空気圧の床昇降装置を設け、柔道や剣道に対応できる他、段差をなくして遮音可動間仕切りを取り払えば、講堂と一体利用が出来るようにもなっています。
・様々な利用者に優しい建物として、バリアフリー化につとめ、ユニバーサルデザインを徹底しました。
21世紀の新しい警察として、先進的な警察機能に対応できる計画としました。
・人権、機密の保持を重視して一般来庁者と様々な特別な職務動線とを徹底して明確に分離をすることにしました。護送口と検察室の前には十分なスペースを確保し、全体をシャッターで区画し外部との遮断を徹底しました。
・犯罪の多様性が進む中、今後、警察組織の再編や、部署の改変などが頻繁に行われることを予想して、空間利用のフレキシビリティを高めるため、コンクリートの壁を廃し、乾式の間仕切りを採用しスペースの再配分を容易にローコストで行えるようにしました。特に、5,6階部分の寮室については個室の間仕切りも全て乾式とし、将来は庁舎事務室に転用できる構造としました。
・24時間業務に対応しうる設備システムを採用し、保守、維持点検を考慮に入れた機械室や設備スペースの確保につとめ、24時間の室内環境保持や多様な情報化機能にも対応できるインテリジェントビル化を図りました。
・防災拠点施設としての安全性を確保するために、耐震重要度係数1.5を確保し、耐震性に優れた仕上げや機器、システムなどを採用しました。
公共建築に今、最も求められているコスト管理をあらゆる面から重視した計画としました.。
・建物の長寿命化がライフサイクルコストの最も削減になるとの見地から徹底した長寿命化を実現しました。外装材は長寿命でメンテナンスフリーの金属パネルと磁器タイルを華美にならないよう配し、外部金物はステンレス製としました。また、将来の内部改修や時代の変化に伴う設備機器の取替えに対応するようにゆとりある平面、階高、耐床荷重、設備シャフトを計画しました。
・ランニングコストの削減の為に徹底した負荷の抑制を考慮しました。外壁、屋根、窓廻り等の断熱、気密を強化するためのディテールを採用し材料を選定しました。また、奥深い窓や庇を効果的に使い熱線反射ガラスやブラインドの併用によって開口部の日射熱射負荷を抑制しました。
基本設計、実施設計、各段階においてVEの検討を行い、合理的なコスト計画を追及しました。
・このような大きな規模の建物を計画するときの常識として、環境にやさしく、出来るだけ影響の出ない建物にするよう勤めました。
・パッシブデザインの考え方にのり、自然のエネルギーである自然光を室内に導き、昼間人工照明の負荷の軽減を図ったり、中間期の冷暖房負荷を縮減するために開閉しやすい開口部を用い自然の風を取り込みやすい計画としました。
・屋根には屋上緑化を施し、屋外駐車スペースは芝ブロックを採用し、ヒートアイランド現象の防止に努めました。
・屋外の舗装部分を最小限に抑え雨水をできるだけ浸透させ下水負荷を軽減するよう努めています。
主な用途:警察署
構造:鉄骨・鉄筋コンクリート造
階数:地上6階 地下1階
建築面積:2,254m2
延床面積:9,203m2