京都府の南西部、大阪と京都の中間にあって、木津川・宇治川・桂川の三川が合流して淀川となる地点に位置する八幡市は、古くから陸路・河川を利用して人・文化・経済の交流が活発に展開されてきたところです。松花堂庭園とその周辺地域は、石清水八幡宮の門前として発展してきた市の東中部地域と、新しく住宅開発によって形成された西部地域の接点に位置しており市民交流の拠点として、また市を代表する歴史的・観光的資産として市の活性化のために活用されることが望まれていました。
同庭園内の松花堂茶室は、書画・茶道・和歌などに優れ「寛永の三筆」と称された松花堂昭乗が晩年に居を構え、さまざまな形で文化交流を広げていったところであり、さながら当時(寛永時代)の「文化サロン」のようでありました。
昭乗が絵の具箱として愛用したといわれる十文字に仕切られた正方形の器に料理を盛り込んだ「松花堂弁当」は、昭和初期に考案されたものであり、懐石料理の流儀に基づいているとされ、法事など公的な場でもよく見かけるなど今や全国ブランドとなっています。
松花堂美術館及び諸施設は、このような背景を受けて歴史・文化・食を通して広く交流できる「場」と、市内外の人々が集まる「仕掛け」を提供できる施設とすることをテーマとして計画しました。
施設の構成は、昭乗ゆかりの品々を中心に展示を行う展示室や、八幡市の歴史・文化・自然・名所・行事などの情報を提供する情報センターなどを備えた「美術館棟」、庭園を眺めながら松花堂弁当を食することのできる「食の交流棟」、そして有料庭園の入口でもあり券売所のある「ゲート棟」の3つの建物から構成されています。これらの建物を屋根付きの回廊でつなげ、中央に広場を設けて施設全体を交流ゾーンとして位置づけています。また、回廊を境として庭園ゾーンと交流ゾーンとを視覚的・機能的に分離しています。
美術館棟・食の交流棟は、敷地の高低差を利用して半地下形態の2層建物とすることで庭園及び施設利用者の動線と物資搬入の動線を明確に分けると共に、庭園や広場側からは平屋建の建物に見せて落ち着きのある空間を演出しています。
外観は、庭園の景観に適合するよう、また周辺の街並みに違和感なく溶け込めるように和風を基調としたデザインでまとめており、美術館棟に付随するミュージアムショップは松花堂庭園の西約50mにある「八角堂」をモチーフとした8角形の形態としてこの施設全体のシンボル的な存在となるよう特徴付け、道路に面して配置することで人々の流れを誘うことをねらいとしています。
こうした「場」や「仕掛け」によって、松花堂交流施設が『平成の文化サロン』として八幡市の発展に広く寄与することができるよう願っています。
主な用途:美術館・レストラン
構造:鉄筋コンクリート造
階数:地上1階 地下1階
建築面積:1,935m2
延床面積:2,396m2