痛ましい事件をうけ設置された「校舎建替検討委員会」や学校当局と保護者による「学校及び校舎設計諮問会議」にオブザーバーとして参加し、さまざまな提案を行いました。「検討委員会」では、校地への出入口を一箇所に限定し、事件のあった南校舎(改築後は東館)は構造体を残し改築し、事件を忘れないためのスペースと特別教室に、北校舎はとりこわし、普通教室棟(改築後は西館)を増築する。比較的新しい体育館は、事件とのかかわりの中で、道路に対する死角を解消するために外壁を可視化するという方針が打ち出されました。
この方針を受け、私たちは、○子どもたちにとって学校は安全な場所であり、○安全であると感じることができ、安心してすごせる場所であること、また、心に傷を負った子どもたちや遺族の方々の思いに配慮し、○苦痛な記憶の再体験が繰り返されないような配慮と、○事件をしっかりと受け止め、事件の風化の防止を考慮した施設であること、そして○思い出の詰まった校舎の風景を残すことを主要なテーマとし、基本・実施設計を行いました。
具体的には、敷地外周にはフェンス(H=2~3m)と隣地部分には赤外線センサーを設け、守るべき領域を明確にするとともに、出入口を一か所に限定し来校者の立ち入りをコントロールできるようにしています。敷地内には警報ブザー(18箇所)と正門や建物により死角となる部分等に監視カメラ(9台)が設置されています。校舎は徹底した可視化によって見通しを良くし、極力死角が生じないような平面計画とすること、教官室・事務室・用務員室・保健室等、大人のいる室を分散して配置し、常に大人の目が校舎内や運動場に注がれることにより子どもに安心感を与えるとともに異変をいち早く察知できること、複数の避難経路を確保することなど、安全に配慮した設計としています。校舎内には非常用押しボタン(314箇所)と警報ブザー(105箇所)や監視カメラを目に見える形で設置することによって、子どもたちが安心して過ごせる場となるよう配慮しています。
建物配置:校舎と校地へのアプローチを正面玄関一か所に限定し、子供たちや来校者の管理が確実にできるようにしています。普通教室棟は建物ブロックの雁行配置や、教室を北側にも設けること、図書メディアコーナーを東側に配置すること、体育館の東側にミーティングルームを設けることにより校舎の裏側ができないようにし、死角が生じないような配慮をしています。
事務室・教官室・校長室:事務室は玄関(昇降口)横に配置し、来校者のチェックを行います。扉の外で応対できるように窓口を設けており、不審者を校舎内に入れないようにしています。教官室・校長室を安全管理のための管理センターとして位置づけ、互いに隣接して配置をしています。これらの室はガラスを多用し、室内から玄関や運動場、普通教室棟や吹抜を介してプール方向への見通しが利く位置としています。
オープン型教室と回廊型バルコニー:多様で高度な学習にフレキシブルに対応するため、オープン型の教室としています。通常オープン型教室として使用するが、引戸によって独立した教室としても使用可能(緊急時には侵入者をシャットできる)なつくりとしています。オープンであることから、教室内の様子が各教室からも把握できます。各学年のコーナーには、教師コーナーを配置し、常に大人の視線により安全管理が出来、子供も安心して生活ができます。
吹抜け:玄関、図書メディアコーナー、多目的ホール、スタジオは二層分の吹抜け空間として視覚的に上下階に連続した空間となっており、その近くで何が起こっているか、雰囲気が感じられるように計画しています。
吹抜けを設けることにより変化とうるおいのある空間となるよう考えました。
体育館:校舎との位置関係において、体育館の南側が死角となり犯人の侵入に気づけなかったという反省から、既存の体育館をガラスのカーテンウォールに改修し見通しをよくしています。併せて屋根や外壁を改修したことで外観的にも軽快で開放的な運動の場として生まれ変わりました。
東校舎(南校舎):1階は、メモリアル的な空間として位置づけています。交流スペースとして、スタジオ、ふれあいコーナー、和室を設けています。2~3階は以前の普通教室を特別教室に改修しました。耐震性能を持たせるため、既存バルコニーの外に、耐震フレームを追加。この耐震フレームを付加することにより、新築建物のように外観のイメージが一新させているが、かつての南校舎のイメージを残すため、時計台は形状をそのまま残し、改修しました。
大阪府:池田市
主な用途:小学校
構造:鉄筋コンクリート造
階数:地上3階 地下1階
建築面積:4,368m2
延床面積:9,498m2